1.講義の位置づけ

沖縄国際大学経済学部地域環境政策学科の科目「グローカルセミナーⅠ」は、前期全15回で構成され、そのうち3回は屋外でのフィールドワークを実施します。2025年4月22日(火)、第1回目のフィールドワークとして首里城公園を訪れました。

本講義は、海外に関心を持つ学生が「外国で自国について誇りを持って語れる力」を養うことを目的としています。首里城公園は沖縄を代表する観光施設であり、多様な魅力をもっていますが、切り取る視点によって景観の意味は大きく変わります。今回は、講師の東道里璃の専門である琉球風水の視点から首里城とその周辺景観を考察しました。


2.琉球風水と首里城

琉球王国時代の18〜19世紀にかけて、都市計画や集落形成において風水思想は中核的な役割を果たしました。王府の歴史編纂所『球陽』には首里城の風水鑑定報告書が収録されており、当時の王府が風水的観点から立地や景観を評価していたことがわかります。

本講義では、この鑑定報告書に記された風景を手がかりに、21世紀の現在における首里城周辺景観と比較しました。単なる歴史の知識ではなく、実際に現地で風水景観を確認し、学術的理解へとつなげることを狙いとしました。


3.学習課題と探究の方向性

フィールドワークに先立ち、学生には次の課題を提示しました。

「もし国王から『首里城の風水を改善せよ』と命じられたなら、王朝時代の風水師としてあなたは何をどのように改善しますか。」

この問いに正解は存在しません。重要なのは、

  • 歴史的背景の把握
  • 自らの価値観に基づく論理的な思考の提示

です。さらに副次的な問いとして、

  • 王朝時代における優先的価値観は何か
  • 現代社会における都市形成の価値基準は何か
  • 未来に継承すべき沖縄の姿とは何か

を設定し、学生一人ひとりのアイデンティティと価値観を明確にすることを目指しました。


4.フィールドワークの実施方法

これまでの解説型ツアーでは、講師の東道が直接「これが玄武」「あちらが朱雀」と四神を指し示してきました。しかし今回は、教育的効果を高めるために学生自身が四神を探索する形式を導入しました。

  • 事前に座学で琉球風水の基礎理論を学習
  • 当日は首里城風水マップを配布
  • コンパスを用いて方位を確認
  • 南を向き、太陽の位置と時刻の関係を観察
  • 太陽の軌道をイメージし、地球上の一点に立つ自らの存在を宇宙的スケールで把握

講師は、あくまで風水ポイントまで案内し、必要最小限のヒントを出すにとどめました。


5.学生の反応と学び

最初の観察地点では、学生たちは「四神」を視覚化することに戸惑いを見せました。琉球風水を学んで間もない段階では当然のことです。しかし、3ヶ所目の観察地点に到達する頃には、学生が自らコンパスを取り出し、方位を確認しながら四神を見出す姿が見られるようになりました。

当初は「風水=占い」という先入観を持っていた学生も多くいました。しかし現地での体験を通じて、風水が感覚的・神秘的な要素だけでなく、空間設計と景観理論に基づいた実践知であることを理解しました。座学で学んだ理論が、フィールドでの体験によって立体的に理解された瞬間でした。


6.観光体験と学術的フィールドワークの差異

一般的な観光ガイドによる首里城見学は、事前学習がなくても現地で気軽に楽しめることが魅力です。一方、大学講義では、より主体的に体験ができるようフィールドワークを設計します。首里城を「琉球王国の思想」という歴史に裏打ちされた学術的な視点から見つめ、事前学習で得た知見のフィルターを通し、発表に向けて以下のような学習形態をとりました。

具体的には、

  • 文献調査と現地観察を往還させる
  • フィールド体験を文献により裏付ける
  • 文献知識を現地観察により検証する

という双方向的な学習プロセスを通じ、学生は観光とは異なる首里城の姿を見出しました。それは「琉球王国の思想」に基づく歴史的景観であり、学術的理解へとつながるものでした。


7.今後の展開

次回のフィールドワークは「琉球風水謎解き探検 in 備瀬集落」を予定しています。首里城で得た基礎的な風水景観の理解を踏まえ、より高度な景観解読に挑むことになります。

今回の首里城フィールドワークは、学生にとって「観光地としての首里城」ではなく「琉球風水の思想が息づく学術的対象としての首里城」を発見する第一歩となりました。

The following two tabs change content below.
琉球風水研究者。 立教大学大学院異文化コミュニケーション学修士。 沖縄国際大学経済学部地域環境政策学科 非常勤講師。 首里城や風水集落を通して、琉球王国の自然観と空間思想を研究。 著書『風水空間デザインの教科書』(ガイアブックス)。