ロケ地:KI-HOUSE(沖縄県南城市)@jostyleokinawa

──沖縄建築の先輩を囲んで、特別な風水勉強会を開催しました。

沖縄県南城市にある世界的建築家 窪田勝文氏が設計したモダニズム建築の住宅KI-HOUSE。海を越えて正面に見えるのは、琉球の聖地・久高島。沖縄を代表する建築家のお一人、金城司さんの自邸です。
2024年夏、この空間で、沖縄の建築文化と精神文化をつなぐ風水の対話を目的に、琉球風水勉強会を開きました。参加者は、沖縄の建築家の先輩方。風水という思想を、空間美と設えを通して共に体感いただくひとときとなりました。

コンセプトは、久高島神女の神扇(イチャティーオージ)

久高島の神女が祭祀「イザイホー」で手にする神聖な神扇「イチャティーオージ」。表に鳳凰と太陽、裏に牡丹と月が描かれる。琉球の祈りの象徴。写真提供:東道里璃
久高島のイザイホーで使用された神扇。表には太陽と鳳凰、裏には月と牡丹。祈りと陰陽思想が宿る、琉球精神文化の象徴。

KI-HOUSE から正面に望む久高島は、“神の島”と呼ばれる琉球の聖地。今回のテーブル設計では、久高島の伝統祭祀「イザイホー」で用いられた神扇〈イチャティーオージ〉からインスピレーションを受けました。

イチャティーオージは、久高島の女性が神女となるために12年に一度、午年に行ってきた神事「イザイホー」において、最終日の儀式で神女たちが手にして舞った神聖な扇です。イザイホーは600年以上の歴史を持ち、来訪神信仰を基盤とする日本の古層の儀礼の原型ともいわれる祭祀です。残念ながら1978年を最後に継承は止まり、有資格者の不在により現在は行われていません。

この祭祀は、かつて午年の旧暦11月15日から4日間にわたり実施され、以下のような順に儀式が進行しました。

イザイホー 祭祀の流れ

日数儀式名(主な内容)
1日目夕神遊び(ユガミアシビ)
2日目髪垂れ遊び(カミダレアシビ)
暁 神遊び(アカトキ カミアシビ)
3日目花さし遊び(ハナサシアシビ)
朱付き・ハー神遊び・朱付き遊び
4日目アクリヤーの綱引き
各戸廻り・桶廻り

イチャティーオージは、この4日目「桶廻り」の儀式で神女たちが右手に持ち、神聖な踊りを舞う際に用いられました。扇の表面には太陽と鳳凰、裏面には満月と牡丹の花が描かれており、そこには陰陽思想祈りの精神文化が象徴的に表現されています。今回のテーブルコーディネートでは、この神扇の意匠を、配色・器・装飾を通して空間全体に表現しました。

テーブル設計では、神扇に描かれたモチーフを「器・色・素材」で表現し、空間全体に陰陽の調和をもたらすことを意図しました。

以下は、神扇の象徴とそれに対応するテーブルアイテムの関係をまとめた一覧です。

神扇とテーブル設計の象徴対応表

神扇の意匠(陰陽+モチーフ)テーブルでの表現素材・色彩
表|陽|太陽・鳳凰プレイスプレート、ナプキン折り金色の丸皿・赤の布
裏|陰|満月・牡丹やちむんの器、箸置き(牡丹文様)陶器(白・無地)

色・モチーフ・素材のすべてが意味をもち、空間に精神性を宿す――それが琉球風水の実践です。


空間とテーマの関係性|久高島を望む設えの必然

神の島・久高島を背景にしたアフタヌーンティータイムのテーブル。バタフライピーの青、鳳凰を象る赤いナプキン、神扇の意匠が語る琉球風水の精神性。

久高島は、東の彼方・ニライカナイ信仰と結びついた神の島。
その島を真正面に望むこの空間は、自然と“祈り”をテーマとする設えへと導かれていきました。

当日のテーブルカラーは、深海のようなディープブルー。
これは、久高島を取り囲む海の色です。そこにサンドベージュを重ね、白砂の浜辺を表現。さらに、陽の氣を加える意図で、テーブルナプキンに赤を用い、火の鳥・鳳凰を象徴するように折りたたみ、イチャティーオージにならって向かい合わせに設置しました。

この配色バランスは、「風水的な陰陽調整」としても機能します。
深いブルーは陰の氣を持ち、赤やマゼンタピンクは陽の氣を高める色。
夏の強い陽に偏りすぎることなく、静けさと華やかさのバランスを調えました。

テーブルコーディネートにおける配色と氣の流れのポイント

  • 配色の基本:主色(ベース)+副色(季節感・風景に調和)+アクセント(氣の補正)
  • 素材選びの視点:光沢の有無、素材の冷暖感(例:漆器=温、ガラス=涼)

テーブルトップの構成|神扇の意匠を表現する器と装飾

使用した器は、やちむん作家・新里竜子さんの作品。
首里城に描かれた牡丹の文様から着想を得た特別なオーバル皿と、牡丹形の箸置きを組み合わせました。
牡丹は富貴と華やぎの象徴であり、神扇の裏面に描かれる五輪の花でもあります。

プレイスプレートは金色の丸皿。これは神扇の表面にある太陽をイメージしています。
中央のセンターピースには、漆器の三段ティーティアを配置。
ティータイムには、沖縄食材にこだわったネパール料理のオードブルを盛りつけました。

テーブルコーディネートにおける高さとサイズのポイント

  • センターピース構成:高さのリズム・意味性・視線誘導の3要素で考える
  • テーブルスケールに合わせた器選び:中央の器と客席距離のバランスも実践ポイント

季節と時間帯による設計|“夏の午後”の空間設計

夏の午後、風水空間に咲くブーゲンビリアの装花。深海ブルーのクロスとマゼンタピンクの対比が印象的な設え。東道里璃による琉球風水テーブル演出
中央にあしらわれたマゼンタのブーゲンビリアが、陰のブルーに華やかな陽の氣を加える。テーブル全体をディープトーンでまとめた大人の設え。

2024年8月31日。沖縄では残暑が続く夏の終盤の午後。

空間に透明感と涼やかさを加える工夫が求められました。
ウェルカムドリンクには、南城市の庭で摘んだバタフライピーのハーブティーを用意。

大きく開いた花びらが蝶々「Butterfly」に似ていることから、この花には「バタフライピー(Butterfly Pea)」という名前がつけられました。
蝶は、琉球の伝統衣装である紅型(びんがた)にもよく描かれる意匠のひとつです。

“琉球の方言で、蝶はハーベールーと呼ばれ、死者の魂の化身と考えられ、転じて霊力を表わすともいわれます。衣裳の中に蝶をたくさん飛ばすことで、それを着る人に対して霊力の加護を願ったのかもしれません。”

――那覇歴史博物館 展示解説より

青く澄んだ色合いは、背景の海と空、テーブルクロスの色と美しく調和します。また、ブーゲンビリアの装花は、テーブル中央にマゼンタの彩りを添え、空間に生命感と華やかさを加えました。

テーブルコーディネートでは、季節や時間帯による氣の変化も重要な設計要素となります。

テーブルコーディネートにおける空間設計のポイント

季節設計のポイント

  • 温度感・湿度感・色彩をふまえて、陰陽の氣を調整する
  • 青やマゼンタなど、冷感と陽の華やぎのバランスを意識する

ドリンクの設計ポイント

  • ウェルカムドリンクは、色彩だけでなくストーリー性を添える
  • バタフライピーの青には、「霊性・魂の化身」としての意味が込められている

空間の思想をかたちにする|コンセプト設計のプロセス

世界的建築家、窪田勝文氏が設計した、こだわり抜かれたモダニズム建築空間。そのミニマルで洗練された雰囲気を壊すことなく、調和するテーブル設計が求められました。

まず意識したのは、東の彼方に浮かぶ神の島・久高島と、その背後に広がる海と空。空間の背景と一体化するよう、テーブルクロスにはブルー系の同類色を基調にしたディープトーンを採用しました。

この「青」は、風景との調和だけでなく、風水的な陰陽バランスにも配慮しています。ブルーは陰の氣を持ち、心理的にも食欲減退色とされるため、空間が冷たくなりすぎないように、陽の色である赤とマゼンタをアクセントに加えました。

テーブルナプキンには、火の鳥・鳳凰を象徴する赤い布を使用し、神扇にならって向かい合わせに折りたたみました。装花には沖縄らしいマゼンタのブーゲンビリアを選び、華やぎと氣の高まりを演出しています。

全体をディープトーンでまとめました。トーンが同じだと、色数が多くなってもまとまります。ディープトーンは落ち着いた色ですので、大人の高級感あるイメージができあがります。

このテーブルコーディネートで用いた各アイテムには、陰陽思想に基づく意味性が込められています。以下は、その分類一覧です。

テーブル設計における陰陽分類表

🌑 陰のテーブルアイテム(静けさ・涼・祈り)

アイテム意味・意図補足・象徴
テーブルクロス(ディープブルー)深海・静けさ・落ち着き久高島の海・空との調和
やちむん皿(牡丹文様)豊穣・静けさ・伝統神扇の裏面モチーフ
箸置き(牡丹型)儀式性・慎ましさ・陰の美手元に宿る祈り
バタフライピー(青い飲み物)涼・霊性・透明感魂の象徴(ハーベールー)

☀️ 陽のテーブルアイテム(華やぎ・生命力・中心性)

アイテム意味・意図補足・象徴
テーブルナプキン(赤)鳳凰・火の氣・生命力神扇の太陽・鳳凰に呼応
プレイスプレート(金色の丸皿)太陽・中心・始まり神扇の表面モチーフ
漆器ティーティア(三段)高さのリズム・祝祭感・格式空間の中心・祭壇の象徴
ブーゲンビリア(マゼンタ)華やかさ・生命感・氣の上昇陽の氣で空間を活性化

陰陽の氣を調えることは、空間全体のバランスを調える鍵です。テーブルは「縮小された住宅空間」でもあり、この設計思想こそが琉球風水の中核です。

器にもこだわり、プレイスプレートには太陽を表す金色の丸皿を使用。中央の三段トレイには紀州漆器、食器には沖縄のやちむん(新里竜子さん作)を合わせ、東洋の空気感をミニマルな建築空間にやさしく融合させました。

オードブルは、沖縄食材をふんだんに取り入れたネパール料理。琉球の精神文化と東南アジア文化が交差する、アジアンな雰囲気を添えています。さらに、ウェルカムドリンクには南城市で朝摘みしたバタフライピーを使ったハーブティーを。クリアブルーの色合いが、海と空、そしてテーブルクロスと美しく調和します。

現代建築と欧米化した暮らしのなかに、沖縄の祈りや自然観をそっと重ね合わせる。この空間演出は、モダニズムとトラディショナル、風水と建築、そしてインテリアデザインが交差するひとつの試みでもありました。


テーブルは思想の実践場|風景と祈りを織り込む

今回の設えには、「琉球風水文化入門③」で紹介しているように、
テーブルが“風水住宅の縮図”であり、“思想を実践する場”という哲学が背景にあります。

家という空間を大きく変えることができなくても、
テーブルの上ならば、季節・客人・目的・氣の流れに応じて、陰陽の調和を調えることができます。


▶︎ 関連記事:琉球風水文化入門③ ─ 感覚ではなく、『思想から空間を調えるということ」もあわせてご覧ください

このコンセプト設計では、建築・空間・文化・歴史・風水の全要素がつながっています。
まさに、空間を通して思想を生きるという、琉球風水の哲学の実践例として、参考になれば幸いです。

日々の暮らしの中に、そっと陰陽の調和を取り入れてみたいと思っている方へ。
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思想と実践をゆるやかにつなぐ風水の学びを、ぜひご一緒に。

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琉球風水研究者/ロンジェ®琉球風水アカデミー学長 立教大学大学院修士(異文化コミュニケーション)。 沖縄国際大学経済学部地域環境政策学科 非常勤講師。 首里城や風水集落を通して、琉球王国の自然観と空間思想を研究。 ロンジェ®琉球風水アカデミーでは、風水×テーブルコーディネートを融合した講座を主宰し、伝統と現代をつなぐ実践教育を展開。 著書に『風水空間デザインの教科書』(ガイアブックス)。