こんにちは、ロンジェ琉球風水アカデミー、学長の東道里璃です。

ウィリアム・モリスと琉球風水

19世紀のイギリスのデザイナーである「ウィリアム・モリス」と、沖縄に伝統的に伝わる「琉球風水」。

一体、どんなつながりがあるのでしょうか?

それは、「自然界のピュアな美しさに敬意をはらう」という、軸となる『思想』に共通点があります。

目に見える「物質」は、時間がたてば、やがて老朽化して姿を失います。

しかし、目には見えないですが、芯のある「思想」は、数千年、数百年の時を超えて、その想いが受け継がれていきます。

モリスと琉球風水をつなぐ人物 柳宗悦

琉球風水という一つの「点」と、ウィリアム・モリスという一つの「点」を、「線」で結んでくれた人物がいました。

柳宗悦(やなぎ むねよし)。

明治から昭和の時代を生きた、思想家であり、美学者です。

琉球風水とは「美学」である。この感覚を確認するため、リサーチをしている時に出会ったのが、柳宗悦の残した言葉でした。

柳宗悦が戦前の沖縄を訪れ、首里の街の美しさを絶賛し、以下のように表現しています。

・日本にあるほとんど凡ての城下町を訪ね歩いた吾々に、どの町が最も美しいかを問われる方があるなら、私たちはわず直ぐ答えるでしょう。沖縄の首里が第一であると。

・どの都市が首里ほど美しい山水を四囲に控え、夢に満ちた城郭を内に備え、歴史を語る宮殿や寺院や民屋や、人文の凡てを、かくもよく保有しているでしょう。

・自然と人文とがかくも美しく組み合わさった光景を、日本のどの土地に見出すことが出来るでしょう。

・真に活きた庭園の都市。

・自然と歴史と人文との調和が、かくもよく保存せられている都市。

(引用元:「民藝四十年」岩波文庫より)

美学者が褒め称えるほどの、琉球風水思想でつくられた昔の首里の街の姿とは、どれほど美しいものだったのでしょうか。

一方、私がインテリアのデザインをしていた時、ウィリアム・モリスの壁紙やカーテンに出会いました。

そのあまりの美しさに、一体、ウィリアム・モリスとはどんな人なんだろう?と興味を持ちました。

モリスは、19世紀のイギリスで活躍した、思想家であり、デザイナーであり、詩人です。

リサーチしていく中で、モリスの思想にたどり着きました。

・機能性の上に、美しさを追求する

・自然界の純粋な美しさに畏敬の念を抱く

・産業革命による環境破壊に警笛を鳴らす

・大量生産で低品質なものに反発し、職人による手仕事の美しさを尊重する

そして、ウィリアム・モリスの思想について調べていると、再び、柳宗悦へとたどり着きました。

柳宗悦は、イギリスへ訪れた際、モリスの自宅であった、ケルムスコット・マナーへ立ち寄りました。

その帰りに、モリスの墓をたずね、「この世に工藝の問題が残る限り、彼の墓を訪ねる者は絶えないことだろう」と語っています。

帰国後、モリスのアーツアンドクラフツ運動に影響を受けたであろう、工藝職人の組合を設立しています。

日本を代表する美学者が共鳴した、「首里の景観」と「ウィリアム・モリス」という人物。そこには、「自然との調和」という思想の軸が、共通しています。

この思想の軸を持つ限り、いつの時代に生きようとも、時を超えて、つながることができる。ブレない思想の軸をもつことによる出会いに、身震いした出来事でもありました。

インテリアをミックスする時は、時代背景を理解し、思想の軸をもつこと

私のスクールで、インテリアのデザインをする際に、多くの人が、共通してつまづくところがあります。

それは、インテリアスタイルの設定がうまくできず、インテリアがごちゃ混ぜになって、美しくまとまらないことです。

西洋風のインテリアというと、私たちに日本人は、「クラシック」「エレガント」などの抽象的な言葉で、なんとなくイメージしています。

洋風でエレガントなインテリアにしたいと思ったけど、ロココ調の猫足の家具と、モリスの壁紙を合わせようとしても合わない。

一体、何故でしょうか?

それは、根底に流れる「思想」が違うからです。

モリスは、権力や富を表現するバロックやロココのような派手な装飾を嫌い、自然で素朴なものに美しさを見出すといった思想を持っているため、「考え方」が合わないからです。

つまり、インテリアスタイルを設定する時は、遠回りのようですが、ロマネスク、バロック、ロココ、ネオクラシカル、クラフトマンシップ、インダストリアルなど、それぞれの様式が生まれた時代背景を知り、なぜそのスタイルが生まれたのかという、当時の考え方を知ることが、一番の近道です。

それぞれのスタイルには、部分的に共通した考え方も含まれているので、その軸となる考え方を中心に、インテリアのテイストをミックスしていけば、統一感の生まれたインテリアができあがります。

どの考え方を軸とするかは、住む人の価値観から決まります。

ご自身の価値観を明確にし、思想の軸をもつことが、インテリアを成功させることにもつながるんですね。

設計する側の、建築・インテリアの専門家の方の場合は、施主の価値観が、どのインテリアスタイルのどの部分と調和するのか。ここの見極めが素早くできれば、インテリアスタイルの設定や提案も、スムーズにできるのではないでしょうか。

琉球風水と相性の良い家・悪い家

琉球風水とは「思想」なので、目には見えないため、どんなデザインにも対応することはできます。

しかし、残念ながら、相性の悪い家もあります。

それは、環境破壊につながる建築。

経済的価値観に偏った考え方による建築です。

理由は、琉球風水には「自然との調和」「良い氣へのこだわり」「住む人にとっての最高の心地よさを追求する」という思想が、根底に流れているからです。

「幸せを感じる家づくりがしたい」

「最高に心地よい家づくりがしたい」

「心身が健康になる家づくりがしたい」

「自然と調和する家づくりがしたい」

このような想いを持って家づくりをされる方と、琉球風水はとても相性が良いです。

自分にとっての揺るぎない思想の軸を手に入れることができれば、時を超えて、空間を超えて、同じ想いを持つ人と、出会うことができるようになります。

テクニックを超えた、「思想の軸」を手に入れ、より質の高い空間づくりを目指す方のために、ロンジェはこれからも、「思想(考え方)」と「思想を建築・インテリアの実践に落とし込むスキル」を、お伝えしていきたいと思います。

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琉球風水研究者/ロンジェ琉球風水アカデミー学長/立教大学大学院異文化コミュニケーション学修士/沖縄国際大学非常勤講師 沖縄の伝統文化としての「琉球風水」を専門とする研究者。 首里城をはじめとする歴史的建造物や都市景観に見られる風水思想を、学術文献、漢文資料(『使琉球録』など)や発掘調査報告をもとに検証し、琉球王国の空間構造と自然観・世界観を、歴史文化の視座から紐解く研究を行っている。 立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修了(修士)。現在、沖縄国際大学経済学部地域環境政策学科にて、これから世界へ羽ばたく学生を対象に、琉球風水・地域文化、異文化コミュニケーションを学ぶ「グローカルセミナー」を講義。 また、琉球風水の知見を現代空間に応用する専門家「風水空間プロデューサー」としても活動し、主宰する「ロンジェ琉球風水アカデミー」では実践と学術をつなぐ教育を展開している。 2022年には著書『風水空間デザインの教科書』(ガイアブックス)を出版。 さらに、首里城復興イベント「木曳式」では、沖縄県より公式認定を受けイベントを開催。沖縄タイムスなどの新聞・雑誌への寄稿や講演活動を通じて、琉球風水の文化的価値と現代的意義を広く発信している。 東京都世田谷区出身で、かつてはJARTIC日本道路交通情報センターでキャスターを務めた経歴も持つ。趣味はスクーバダイビングとトレッキング。自然と対話しながら、土地の「氣」を感じる時間を大切にしている。